大動脈弁狭窄症とアミロイドーシスの関係

2017年01月23日

大動脈弁狭窄症(AS)とアミロイドーシスについて、European heart journalからの報告をもとにお話しします。以前のコラム でも少しお話ししましたが、アミロイドーシスの中でもATTRは、80歳以上の高齢者の剖検では20-30%の患者で認められると言われ、実は身近な疾患でもあります。ASも多くは動脈硬化により変性した大動脈弁の狭窄ですので当然ながら高齢者に多くなってきます。この中で、Low flow low gradient ASという状態があります。EF低下による心拍出量が低下で大動脈弁の圧較差が小さくなっているASがこの代表ですが、それに加えてEFが保たれていても高度の心肥大やrestrictiveな心筋であることによってもlow-flowとなります(paradoxical low-flow low-gradient ASとも呼ばれます)。そしてこの患者は、高齢者において予後が悪いといわれています。

今回の研究報告ですが、フランスの6つの施設でATTRとsevere ASの診断であった患者を探したところ、16人おり、その特徴について報告しています。患者の特徴としては、平均年齢79歳、男性が81%、手根管症候群を31%に合併、NYHA3-4が60%、心房細動の合併が56%、トロポニン陽性が91%、 LVEF 50±13%、 IVST 18±4mm、mean Pressure Gradient 33±23mmHg、 Stroke Volume Index 27±7ml/m2で、12人がlow gradient ASでした。結論からいうと、「70歳以上、男性、手根管症候群、高度の息切れ、low flow AS、高度の左室肥大という特徴がある場合は、ATTRのスクリーニングをした方が良いということ」でした。

ASとATTRは、どちらが原因でどちらが結果ということはいまだわかっておりません。手術で切除された大動脈弁に高率にアミロイドの沈着があったことも報告されており、弁へのアミロイド沈着がASを引き起こすという意見もあれば、ASによる圧負荷が心筋リモデリングに悪影響を及ぼし、アミロイド沈着をしやすくするという意見もあります。 また、ATTRとASが合併している場合、外科的な大動脈弁置換術をおこなっても、症状の改善が乏しいことも多く、また手術自体のリスクも高いと言われています。 経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)についても、これらの患者群では心破裂や完全房室ブロックのリスクが高く、剖検でもTAVI施行患者の1/3でアミロイド沈着がみつかり、これらの患者の予後が悪いため、アミロイドーシス合併のASに対するTAVIの適応については問題視されています。

TAVIは高齢でASの開胸手術ができない患者で行われています。そして、これらの患者へTAVIを行うことで症状が良くなると考えられています。しかしながら、ATTRを合併していれば、思った以上の症状改善は得られず、予後も変わらない可能性があります。

現在、ASとATTRの合併が実際にどのくらいあるのかについては、いまだわかっていない上に、これらの合併が多い可能性があることさえほとんど知られていません。しかし、超高齢社会が進む現在、これからの疾患の合併が増えてきます。患者さんにとってのベストな医療が何か、今後も考えていく必要があります。

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参考文献

  • Galat A, et al. Eur Heart J. 2016;37: 3525-3531.

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