心不全、心房細動、β遮断薬

2017年07月28日

左室収縮能が低下した心不全患者(以下HFrEF)へのβ遮断薬の投与は、死亡率を低下させることがわかっており、広く使用されています。しかしながら、心不全症例において洞調律患者と心房細動患者へのβ遮断薬の効果の違い、またどの程度の心拍数でコントロールするのが良いのかは、いまだ明らかになっていません。

 

最近、アメリカの心臓病学会誌であるJournal of the American College of Cardiologyより、この点についての興味深い研究報告がありました。心不全に対するβ遮断薬のランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスとなります。 洞調律が14313人、心房細動が3065人の計17378人のデータが解析されました。 年齢中央値は65歳、24%が女性、LVEFの中央値は27%、心拍数の中央値は洞調律で80/分、心房細動で81回/分でした。洞調律か心房細動かに関わらず、若年者、女性、非虚血性心筋症、低LVEF、NYHA3-4の患者において、心拍数がより高いという結果でした。

 

治療前心拍数と死亡率の関連

洞調律患者では、平均1.5年の観察期間で、15.1%が亡くなりました。そして、治療前心拍数が10回/分上昇するごとに1.11倍死亡リスクが上昇するという結果でした。また、β遮断薬使用者においても、プラセボ使用者においても、治療前心拍数の高い群(>90/分)で死亡率が高くなりました。

心房細動患者では、20.1%が亡くなりましたが、治療前心拍数と死亡率には相関はありませんでした(図1)。

 

β遮断薬の死亡率への効果

治療前心拍数で3群にわけてそれぞれ解析した場合、洞調律患者ではβ遮断薬使用者はプラセボ使用者よりも、3群ともに死亡率が低いという結果でした。

心房細動患者では、β遮断薬使用の有無で死亡率には関連が認められませんでした。 

 

治療後心拍数v.s.低下心拍数

β遮断薬の有無で観察開始、約6か月後の心拍数で、3群に分けてその後の死亡について解析が行われています。尚、β遮断薬投与にて、洞調律群も心房細動群も脈拍は11-12回/分と同等の低下を認めています。

洞調律群では、治療後心拍数が低い群(<70回/分)ほど予後がよいという結果でした。これは、β遮断薬使用者でも、プラセボ使用者でも同様でした。また、心拍数を10回/分に下げられること(the change in heart rate)よりも、低い心拍数であること(the heart rate achieved)の方がより死亡率低下に寄与するという結果でした。

しかしながら、心房細動患者ではこれらの関連が認められませんでした。

 

これらの結果をまとめますと

左室収縮能が低下した心不全(HFrEF)において、洞調律患者については、β遮断薬の使用は、治療前心拍数が <70、70-90、>90回/分(中央値65、80、98回/分)の3群のいずれにおいても、死亡率低下に有効でした。そして低い心拍数の群ほど、治療前でも治療後でも予後良好であるという結果でした。またβ遮断薬を使用した群は死亡率が低く、その治療後心拍数が低い群ほど死亡率が低かったという結果でした。

一方で、心房細動患者については、心拍数と死亡率との相関がなく、またそこにβ遮断薬の有効性はないという結果でした。

これらより、HFrEF症例への心房細動の脈拍コントロールおよびβ遮断薬の効果は、生命予後を考えた指標としては、現段階ではない、という結果となります。洞調律と比較して、心房細動においては、交感神経系が筋細胞、末梢血管系、腎機能、代謝および免疫機能に及ぼす悪影響の減弱を示唆する結果となりえます。 このように、心不全における心房細動のメカニズム、という点において、改めて考えさせられた研究報告となりました。

ここで、付け加えなくてはならないことは、本研究結果からHFrEFの心房細動症例にβ遮断薬を投与しなくては良い、ということではありません。 1)RCTのメタアナリシスのため、脈拍が低いまたは高い症例数が限られており、全ての症例がその限りではないこと、2)今回のエンドポイントは生命予後であり、心不全の重要な治療目標としてあげられる症状緩和と生活の質、への効果は検証していないこと、3)対象がHFrEFであり、これから心不全の半数以上を占めてくるとされる収縮能が保たれている心不全(HFpEF)の心房細動の症例には本研究結果は反映されていません。

 

(図1)

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参考文献

  • Kotecha D et al. J Am Coll Cardiol. 2017 Jun 20;69(24):2885-2896.

 

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