慢性心不全のセルフケア

2016年07月08日

前回のコラムでは、慢性心不全の管理プログラム、つまり医療スタッフ側がどのような管理を行ったら良いかを、最近報告されたヨーロッパ心臓病学会心不全ガイドラインを参考にし、記載しました。 今回は慢性心不全のセルフケア(自己管理)についてです。 同ガイドラインにおいても、心不全は患者の自己管理が重要な役割を果たし、自己管理能力を向上させることにより、予後は改善することが述べられています。 理想的な心不全指導をしても、患者自身が生活の中に取り入れられなければ意味がありません。今回は患者さん自身のセルフケアのポイントについて、ガイドラインを参考にしながら、記載いたします。

  1. 心不全の定義、原因、重症度、経過

心不全という自分の病気自体について患者さん自身も、原因や症状、重症度、そして今後の経過について知っていることが大切です。

  1. 症状モニタリングとセルフケア

息切れやむくみ、体重増加などの症状変化や兆候を観察します。そして、いつ、どのように医療者側に伝えるべきか、また利尿剤や飲水量をどのように自己調節すれば良いかを理解していることが大切です。 そのため医療者側も、それぞれの患者さんにあわせ、これらの情報を伝えておくようにします。 例えば、息切れやむくみの増悪や体重が3日で2kg以上増加するような時には、頓服の利尿剤を追加で内服し、そして医療者側にも連絡するように、というように伝えます。

  1. 薬物治療について理解する

服薬の中断は心不全の増悪誘因のひとつであり、服薬順守は治療成功の鍵となります。薬の効果や投与量、副作用について理解し、薬物治療の重要性を知ることが大切です。特に、心不全治療薬とされるアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII 受容体拮抗薬、β遮断薬は、おくすり屋さんからもらう薬剤情報提供書には適応を「降圧剤」と記載されていたりします。医師や薬剤師さんと話し合い、理解することが大切です。

  1. デバイスの適応や目的について理解する。

ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)などの、植え込み型デバイスの適応や目的、合併症について知ります。また病院で定期的なデバイスチェックを行い、自身でもその状況を理解していく必要があります。

  1. 予防接種

心不全の患者さんは、インフルエンザと肺炎球菌の予防接種をうけることで、症状の重症化を防ぐことが重要です。

  1. 食事とアルコール

過度な水分摂取は禁物ですが、高温多湿な環境や嘔吐時には、逆に水分を摂取することも必要です。健康的な食事摂取を継続し、食塩は6g以下として体重を維持します。また過度の飲酒は控えます。ちなみに健康日本21で定められているアルコール摂取の基準値は、ビール中瓶1本(500ml)、焼酎・清酒1合(180ml)、ウイスキー(ダブル60ml)、ワイン1杯(120ml)となります。一般的にビールはワインなどに比べて、お供のつまみや食事に塩分が多く含んでいることが知られています。アルコールそのものだけではなく、その隣の塩分量にも注意する必要があります。

  1. 運動

急性増悪時に運動は禁忌であり、活動制限と安静が必要です。しかし状態の安定した慢性心不全では、安静によるデコンディショニングは運動耐容能の低下を助長するとともに、労作時の易疲労感や呼吸困難等の症状を悪化させる要因となります。特に高齢患者においては、加齢による退行性変化および廃用性変化により、日常生活動作(ADL)が低下します。特に、下肢筋力やバランス機能の低下が著しいため、歩行や階段昇降等移動動作が制限されやすく容易に転倒し、排泄行動や、家事、社会活動等、患者の日常生活全般に影響を及ぼします。したがって、過活動になりすぎず、低活動になりすぎない、適度な運動が必要となります。尚、当院では適度な生活活動度の評価を循環器医師、リハビリテーション専門医、理学療法士などで評価し、指導しています。

  1. 喫煙

喫煙はあらゆる心疾患の危険因子であり、心不全患者さんは禁煙により死亡率や再入院率が低下することがわかっています。禁煙外来の受診や認知行動療法の活用も有用です。

  1. 旅行とレジャー

それぞれの身体能力に合わせて旅行やレジャーの計画を立てる必要があります。また食事や気候の変化が水分バランスに影響を及ぼすことにも注意してください。また服用量を記載した一般名の内服薬リストを用意します。

  1. 睡眠と呼吸

睡眠障害と心不全の関連について認識し、就眠環境の整備やデバイスの使用、ウエイトコントロールを検討します。

  1. 入浴

入浴は慢性心不全患者において禁忌ではなく、適切な入浴法を用いればむしろ負荷軽減効果により臨床症状の改善をもたらすことが示されています。熱いお湯は交感神経緊張をもたらすこと、深く湯につかると静水圧により静脈環流量が増して心内圧を上昇させることから温度は40~ 41℃、鎖骨下までの深さの半座位浴で、時間は10-15分以内としましょう。また入浴前後の労作やお風呂場から出たときの温度差が心臓に悪影響を及ぼすことがありますので、十分な注意が必要です。

  1. 精神面

認知障害や抑うつは心不全患者ではよく見られます。これらの存在は患者さんが治療へ積極的に参加することの弊害となります。生活スタイルの変化や薬物治療、デバイスの植え込み、植え込み型人工心臓、心臓移植などの治療過程で精神的な問題が起こる可能性を知り、家族やケア提供者を心不全治療に参加させ、必要とあれば専門家のサポートをうけます。

  1. 性生活

性交時の運動強度はおおむね3-4METsに相当します。運動負荷試験で不整脈の誘発、負荷後の過度の息切れ、疲労感なしに行う事ができたら性交渉は可能と考えられます。また勃起障害の治療薬も心不全の状態によっては悪影響を及ぼすこともありますので、主治医の先生に相談することが必要です。

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参考文献

  • 2016 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure: Eur Heart J. 2016; 18: 891-975

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