急性・慢性心不全診療心不全ガイドライン:vol.1 改訂のポイント

2018年05月08日

2010年の慢性心不全治療、2011年の急性心不全治療ガイドラインが統合改訂となり、2017年急性・慢性心不全診療ガイドラインとなりました。今回は、その改訂のポイントについて概説します。

 

1.心不全の定義:

我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第 2位であり、心不全による5年生存率は 50%と予後についても決して良くありません。一方で、その事実と心不全の怖さ(例えば、完治しない等)については、国民にあまり知られていないのが現状です。そのため、心不全について、国民によりわかりやすく理解して貰うため、日本循環器学会と日本心不全学会とが連携し、新しい心不全の定義である「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」が策定されました(参照:http://www.asas.or.jp/jhfs/)。

 

2.心不全のステージと治療目標: 

2005年のアメリカ心臓病学会ガイドラインで提唱されたものを準拠して作成されています( 参照:以前のコラム「心不全の病期・ステージ分類」)。 各ステージにおける治療目標はステージの進行を抑制することにあります。ステージA(リスクステージ)では心不全の原因となる器質的心疾患の発症予防を、ステージB(器質的心疾患ステージ)では器質的心疾患の進展抑制と心不全の発症予防を、そしてステージC(心不全ステージ)では予後の改善と症状を軽減することを目標とします。ステージD(治療抵抗性心不全ステージ)における治療目標は,基本的にはステージCと同様ですが、終末期心不全では症状の軽減が主たる目標なります。また、緩和ケアと終末期ケアは同義ではなく、緩和ケアは終末期から始まるものではないと区別されています。

 

3.左室駆出率(LVEF)による分類:

急性心不全・慢性心不全のガイドラインを統合するにあたり、アメリカ心臓病学会およびヨーロッパ心臓病学会のガイドラインを参考に、左室収縮能による心不全の分類が採用され記載されています。つまり、HFrEFをLVEF40%未満、HFpEFをLVEF50%以上、そして、HFmrEFをLVEF40%以上50%未満と分類しています。

 

4.心不全の診断アルゴリズム:

心不全診断全体の流れを分かりやすく示したものに改訂されています。症状、既往・患者背景、身体所見、胸部レントゲン、心電図から心不全を疑う所見が1項目以上該当する場合に、心不全を疑わせる患者または心不全の可能性と判断します。次いで、NT-proBNP≧400pg/mlまたはBNP≧100pg/mlであれば、更に心臓超音波検査を追加します。病的異常所見あれば心不全と確定されます。また、安静時心エコー検査と症状に乖離がある場合などは、CT・MRI・核医学検査、運動/薬剤負荷試験、心臓カテーテル検査を追加するという診断アルゴリズムです。

 

5.心不全の治療アルゴリズム:

心不全患者の多くはステージCであり,症候が改善してもステージCにとどまるため,急性期から慢性期治療への移行が重要という考えから、この心不全の治療アルゴリズムはステージCとステージDの心不全が対象で、更にステージCは左室収縮能による心不全の分類によりそれぞれ分かれた治療法が設定されています。具体的にはステージCのHFrEF(:ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、利尿薬、さらに必要に応じてジギタリス、血管拡張薬、ICD/CRT運動療法)、ステージCのHFpEF(:利尿剤、併存症に対する治療)、ステージCのHFmrEF(:個々の病態に応じて判断)、ステージD(:治療薬の見直し、補助人工心臓、心臓移植、緩和ケア)というアルゴリズムになっています。

 

6.急性心不全治療における時間軸と病態をふまえたフローチャートを作成:

急性心不全は急速に心原性ショックや心肺停止に移行する可能性のある逼迫した状態であり、時間軸と病態を踏まえて、初期対応から急性期対応のフローチャートが作成されました。具体的には、トリアージ(10分以内)、迅速評価(次の60分以内)、再評価(次の60分以内)という時間軸を設定しています。トリアージはバイタルサイン、四肢冷感などの臨床所見とから、血液ガス分析に乳酸値を参考に、循環動態が安定か、不安定かを評価し、不安定であれば、補液、強心薬投与、IABP/ECMOなどの処置を追加します。もちろん、心肺停止の場合はACLSに移行します。次の60分以内に迅速評価を行います。呼吸不全の評価と急性症候群かどうかをみます。血液検査(BNP/NT-proBNPなど)、心電図、心エコー、肺エコー、胸部レントゲンを行います。呼吸不全がなければ、血管拡張薬・利尿剤の投与、呼吸不全の場合、SpO2<90%または動脈血酸素分圧(PaO2)<60 mmHgの患者に対しては酸素投与を行い、呼吸困難の改善が認められない(呼吸回数>25回/分,SpO2<90%)場合はすみやかに陽圧呼吸を導入します。また、急性冠症候群の場合、緊急CAG/PCIにうつります。その次の60分以内に、再評価を行います。つまり、心不全病態・治療効果の再評価治療の修正を図ります。特殊な病態の鑑別(MR. CHAMPH:心筋炎、右心不全、急性冠症候群、高血圧緊急症、不整脈、機械的合併症、急性肺血栓塞栓症、高拍出性心不全)を行って、急性期医療につなげるフローチャートになっています。

 

7.重症心不全に対する補助人工心臓治療(VAD)のアルゴリズム:

新規発症重症心不全(急性心筋梗塞・劇症型心筋炎など)の場合と、慢性心不全急性増悪(拡張型心筋症や虚血性心筋症)の場合の2通りのアルゴリズムに分かれていて、それぞれにVADの治療戦略が明確に記載されています。新規発症重症心不全の場合は、血行再建などの特定の治療に加えて、IABPおよびPCPSサポートを行ったうえで離脱困難で、他臓器機能が正常または可逆的可能性のとき、次の治療ステップまでの橋渡しとして一時的にVADを使用するbridge to decision(BTD)が行われます。更に、標準治療の強化リハビリを行い心機能が回復すれば、VADによる循環補助により自己心機能の回復とそれに伴うVADからの離脱を目指すbridge to recover(BTR)となり、回復なくかつ移植適応であれば、体外設置型LVADから植込型LVADへ変更するbridge to bridge(BTB)となり心臓移植へというアルゴリズムです。一方で、慢性心不全急性増悪(拡張型心筋症や虚血性心筋症)の場合は、静脈強心薬、IABP/PCPSサポートが開始され離脱困難であるとき、移植適応であれば心臓移植を目指すものの内科治療では血行動態を維持することが困難であり,移植までの橋渡しとしてLVAD治療を行うbridge to transplantation(BTT)となり、将来的に移植適応の可能性がある場合は、移植適応取得のためにLVAD治療を行って臓器障害の改善を目指すbridge to candidacy(BTC)となります。そのうえで移植適応となれば、BTBとなり、また回復すればBTRとなります。そして、BTT、BTBともに心臓移植へというアルゴリズムです。

 

8.心不全の緩和ケア

心不全に対する緩和ケアの必要性を医療従事者に啓蒙することも目的の一つとして記載されています。具体的には、アドバンス・ケア・プランニングと意思決定支援について、前述した緩和ケアと終末ケアの区別する心不全終末期の判断と緩和ケアの対象について、緩和ケアにおけるチーム医療の重要について詳細に記載されています。

 

以上のように、いくつかの改訂ポイントを概説しました。 このほかにも、心不全に対する薬物治療として、利尿剤であるバソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン)、糖尿病治療薬であるナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬などの新しい治療薬の適応についても記載されています。 これから各項について、さらに掘り下げて解説していきます。

 

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参考文献

  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

弓野 大

 

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