米国老年学会でのシンポジウムを終えて

2019年11月19日

2019年11月、アメリカ・テキサスで行われた米国老年学会でのシンポジウムに招聘いただき、参加してきました。

同学会は、アメリカを中心として、世界各国から医師、看護師、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなど、老年学に関わる多職種が参加している年1度の大きな学会となります。 参加期間中には、一般口演やポスターでの多くの医学研究の発表を見てまわり、老年学にかかわる「フレイル」「認知症」「介護負担」「在宅」というキーワードが目立ち、様々な角度で報告されています。 これまで参加してきた医師主体の学会と違い、多職種での活発な議論が印象的でした。 

私が発表したセッションは、「世界の在宅医療」ということで、制度、技術、経済、教育に大きく4つに分かれ、それぞれ2,3人のプレゼンターが発表し、議論していくというものです。 参加者は、アメリカからは在宅医療協会会長ら複数、またカナダ、フランス、イタリア、オランダ、アイルランド、中国など各国で在宅医療にかかわるキーパーソンが集まっていました。 その中で、「在宅医療とテクノロジー」というテーマで、日本を代表するかたちで、当院が行っている心不全への在宅医療、そしてこれからの日本の人口動態を考えたテクノロジーの可能性について話をしました。その後の質疑応答では、具体的な医療の介入方法、多職種チームでの対応、また使用している検査機器、当院独自の管制塔機能から組織運営まで、多くあがりました。 世界で高齢化率がNo1の日本で行われている実際の医療に、世界中が注目していることをひしひしと感じました。 

シンポジウムの終了後、10名ほどの各国の先生方との会議にも参加し、これから世界での在宅医療の更なる発展のために様々な議論がなされました。 まず本セッションを通して、私たちの日本で通常行われている在宅医療の形態は、国民皆保険制度で保険診療内にあること、医学生からの実習体制があることなど、他の国と比較して恵まれている環境にあることを実感しました。 次に、在宅医療は、看取り医療というよりも、適切な医療提供のひとつ『 Hospital at Home 』の考え方が強い印象を受けました。 例えば高齢者が救急車で病院に搬送されていても、病状や患者背景などを考え、病院よりも在宅での医療提供が、生活の質を保ちながら良い医療の質が確保できる、と判断された場合には、病院ではなく在宅での救急対応を行うなどがあります。 まだまだ高齢者であっても病状が悪くなれば、病院での管理がファーストという時代ではありますが、世界中では病院が全てではなく、生活の場での医療提供も選択のひとつにあるという、医療体制の変遷を感じております。 

今回の国際学会において、日本で実践されている在宅医療が、世界でも先進的な位置にあることを再認識するとともに、いま我々が行っていることを様々な形で発信することで、私たちが直接は触れることができない世界中の患者さんへも、大きな貢献の可能であると考えております。 これから、日本は高齢者の超高齢化、そして労働人口も減っていきます。 そのような中で、いかに人々が安心して過ごせる社会をつくることができるか、それは私たち医療者がより積極的に考えていかなければなりません。

最後に、このたびの国際学会での貴重な機会をいただきました、東京大学の老年医学の先生方に厚く御礼を申し上げます。

 

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弓野 大

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