身体活動と健康増進 ~座位時間は死亡リスクを増加させる?~
こんにちは、ゆみのハートクリニック理学療法士の相内です。
前回のブログでは「身体活動」(特に「生活活動」)についてお話させていただきました。
少し振り返りになりますが、「身体活動」を行うことが健康増進に繋がるため、成人は1日8000歩以上(週23メッツ×時間以上)、高齢者は1日6000歩以上(週15メッツ×時間以上)の身体活動が推奨されていましたね。(是非お時間があれば前回のブログも読んでみてください。前回ブログはこちらから)
今回はその続編ということで「身体活動」とは反対の概念にあたる「座位行動」についてお話していきます(図1)。
「座位行動」とは、読んで字のごとく座っている行動を言います。ガイドラインによると、座位・臥位における1.5メッツ以下の行動を「座位行動」としております。睡眠をとっている時間は含まれません。例えば、自動車や電車での移動、デスクワーク、テレビ鑑賞などが座位行動にあたります。
図1 身体活動の概念図
この「座位行動」というものが、健康に悪影響を与えるというのが今回のテーマです。
「座位行動」を行っている時間を「座位時間」と言いますが、我々は普段どれくらい座っている時間があるでしょうか?
少し古いデータですが、国民健康・栄養調査(平成25年)によると、平日1日の座っている時間の合計数が8時間以上と回答した者は、成人男性で38%、成人女性で33%もいることが明らかになりました(図2)。世界20カ国の座位時間の調査では、世界国々と比べても日本人の座位時間が非常に長いことが明らかになっています。
図2 日本人成人における平日1日の総座位時間の割合
皆さんの中にも、1日座りっぱなしという人はいないかもしれませんが、座位行動を合計すると1日8時間以上座っているという人もいるのではないでしょうか?
それでは、この「座位時間」はどれくらい健康に影響を及ぼすでしょうか?
日本人を対象とした研究では、座位時間が増えると死亡リスクが高まるという研究結果が報告されています(図3)。図をみると、1日の座位時間が8時間を超えたあたりから、特に死亡リスクが高まることが分かると思います。
次に座位時間に加えて身体活動量を考慮した研究結果を示します(図4)。
身体活動と座位時間でグループ分けしたときのそれぞれの死亡リスクについて表している図になりますが、身体活動が低いことに加えて、座位時間が長いほど死亡リスクが高まる傾向にあることが示されています。極端な例ですが、かなり活動的な人(週35.5メッツ×時間で座位時間が1日4時間未満の人)と比べて、全く動かない人(週2.5メッツ×時間で座位時間が1日8時間以上の人)は1.4倍死亡リスクが高まります。
また同じ身体活動をしていても、座位時間が長い人の方がハイリスクなことが示されています。(*週35.5メッツ×時間のグループは有意な差がありません)
図3 座位時間と時報リスクとの関係
ちなみに海外のガイドラインでは、「1日全体での座位時間を減らすだけではなく、1回に長時間座っている場合できるだけ頻繁に座位を中断すること」も推奨されています。
このような「座位行動」が健康へ悪影響を及ぼすという研究結果から、アメリカでは"Sitting is the New Smoking! "(座ることは新たな喫煙だ)と言われています。喫煙と同じくらい、座位行動は健康への悪影響があるという例えですね。喫煙は体に悪いということは皆さん周知の事実ですが、意外と座位行動が体に悪いということは知られていないのではないかと思います。
1日の中で「身体活動量」を少しでも増やす、また「座位行動」を少しでも減らすことができれば、より健康増進に繋がるということが皆さんの頭の片隅に残ってくれると嬉しいです。
最後に余談ですが、最近使用している方も多いAppleウォッチには「スタンドリマインダー」という機能がついており、座りすぎを警告してくれる機能があります。これも今回お話した、座位行動の悪影響に配慮したものと言えます。このような機能を活用することも健康への第1歩ですね。
訪問リハビリテーション部 理学療法士 相内
参考文献
・厚労省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf; 閲覧日2025/3/24
・Ekelund U, Steene-Johannessen J, Brown WJ, et al.: Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women. The Lancet 388 : 1302-1310, 2016.